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釧路家庭裁判所帯広支部 昭和60年(少)163号 決定 1985年3月22日

少年 M・N(昭44.1.17生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第1昭和59年11月19日午後1時10分ころ、北海道帯広市○○町○×線××番地先路上において、A子所有の婦人用自転車1台(時価約2万円相当)を窃取し

第2昭和60年2月28日午前8時15分ころ、同市○○○町×丁目×番地○○住宅××棟北側駐車場において、B所有の普通乗用自動車1台(時価約30万円相当)及び給油チケツト1冊を窃取し

第3公安委員会の運転免許を受けないで、同年3月2日午前0時3分ころ、同道河西郡○○村字○○×線××番地付近道路において、普通乗用自動車を運転し

たものである。

(適用法令)

第1、第2の事実につき いずれも刑法235条

第3の事実につき 道路交通法118条1項1号、64条

(処遇理由)

1  本件非行は、自転車盗、自動車盗各1件と盗取した普通乗用自動車の無免許運転1件で、事件そのものとしては重大なものということはできないが、本件各窃盗に至る経緯を見ると、さしたる抵抗感もなくいとも安易に非行に及んでおり、これまで同種事件等で2回の家庭裁判所係属歴を有し、殊に、本件各非行は、同種事件等で審判(不処分決定)を受けてから程なく敢行されたもの(第1の非行は約2週間後、第2、第3の非行は4か月足らずのうちに行われたものである。)であることを考えると、少年の非行性は固定化しつつあり、殊にその盗みは癖化しつつあるということができる。

2  そして、少年にとつてのより大きな問題点は、病的ないしは著しく偏つたその性格と、異常に劣悪な父子関係を中心とする要保護性の大きさにあるということができる。すなわち、少年の知能は限界域にあり、精神内容は貧困で柔軟性に乏しく、ものの見方や考え方が自己中心的で視野が狭く、情緒不安定で被害感や不信感を抱きやすく、問題場面に当面すると、自己の殻に閉じこもつて不満を内燃させたり、これに耐えられなくなると、その気持を発散させるため、前後の見通しを欠いた衝動的、短絡的、攻撃的行動にでがちな性向を有する。したがつて、他者との共感性に乏しく、内省も深まりにくい特性を有する。このような少年の性向上の問題点もあつて、少年と父親との関係は極端に悪く、少年は父親を憎んでおり、家出を繰り返し、昭和60年2月8日には少年が父親の頭をマサカリで殴打したり、家の窓ガラスなどをマサカリで壊したりするような事件も発生しており、その親子関係は放置できない状態に立ち至つている。本件各非行は、少年のもつ以上のような問題点を基調とするものであり、殊に前記事件の異常さに照らせば、少年の精神状態には病的疑いもあり、少くともその性格の偏りには相当なものがあつて、少年のもつ問題点を正しく把握するだけでも相当困難な作業というべきである。

3  ところで、少年のもつ前記のような問題点は、幼時に母が自殺し、祖父母のもとで十分な対人接触もなく、十分な愛情も受けずに育ち、小学校4年時に父と同居するようになつたが、その父は、営農に手一杯で、少年と情緒的つながりをもつたり、細い配慮をしたり、しつけのできる人ではなく、飲酒して人の悪口を言いつつ眠つてしまうような状態で、お互い話もせず、勝手に食事をするような生活で放任されて育ち、果ては飲酒した父親から性的凌辱を受けたことなどの成育史上の問題に起因するところが大きいということができるが、前記の事件もあつて、父親は施設収容を希望し、親類の中にも少年の引取りを承諾するものはなく、適当な社会資源は全く見当らない。

4  以上の次第であるから、少年の非行性の拡大、固定化を防止し、その問題点を改善するためには、少年を中等少年院に送致し、時間をかけてなお少年のもつ問題点の解明に努め、系統的、集中的な教育を施すことによつてその人格の向上を図るとともに、保護観察所との連携によつて父子関係の改善を図り、その成果を踏まえて少年の帰住先を決定する以外に方法はないというべきである。

よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山下滿)

処遇勧告書

昭和60年3月22日

釧路家庭裁判所帯広支部

裁判官 山下滿

保護観察所長 殿

少年院長 殿

本籍 北海道帯広市○町○××線××番地

住所 不定

職業 無職

氏名 M・N 昭和44年1月17日生

上記少年に対する当庁昭和60年(少)第24163号窃盗道路交通法違反保護事件につき、当裁判所は、本日、少年を中等少年院に送致する旨の決定をしました。本少年に対しては、父子関係が異常に悪く、少年が父親をマサカリで殴打したこともあり、少年の精神状態につき病的な面も見受けられないではないので、保護観察所においては、少年院と連絡をとりつつ少年の出院までにできる限り受入環境の調整に尽力され、少年院においては、可能な限り少年の精神状態及び悪い父子関係の原因解明に努め、保護観察所の環境調整の成果を十分吟味したうえで帰住先を決定されるよう、少年審判規則38条2項に則り勧告します。

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